2015年05月13日
荒野の七人 (スペイン)前篇

写真は「バルウォーク 2015」 5月23日(土)より
「荒野の七人」 ≪前編≫ 小林克彦
<マドリッド 午後2時過ぎ、真っ青な空から真っ赤な太陽が、ここスペイン王宮広場に
照りつけている。 広場の噴水が陽炎にゆれている。蜃気楼のようにも見える。
6月初旬のスペインがこれほど熱いとは、想像もしていなかった。
気温は40度以上あるが湿度は20パーセント以下で、汗は流れることなくすぐに乾く。
風通しがよい日陰に入れば、むしろ心地よい。
この時間から地元の人はシエスタをする。
わたしたち外国人観光客もシエスタができれば、1日を2度にわけて使うスペイン式
「人生を楽しむ達人」を体験できるかもしれない。
この国を旅すれば自然にそう思えてくる。
<ある日、スペイン発の「ZARA」ブランドを愛用している女房に「本場に買いに行こうか!」と、
誘った。 「あら!マドリッドの本店に行くの?楽しみだわ!」と、明るい返事がきて、ホッとした。
これまで悪いことばかりして、苦労をかけてきたことへの贖罪の気持ちがあったからだ。
<「ZARA」とは、英語やローマ字読みでザラだが、地元ではZAをサと発音するからサラという。
「Hotel」は、「オテル」で、乾杯のことば「Salud!」は、「サルー!」と発音、健康のこと。
Hと語尾のDは発音しない。 Madridを「マドリ」と土地の人は言う。
この国は空港やホテル以外では、英語がほとんど通じない。
いくつかのスペイン語を暗記して乗り込んだほうが楽しい。単独行動しても心強い。
「ポルファボール」と「グラーシアス」は、プリーズとサンキューのことで、あちこちで使えて重宝した。
はいの「シィー」と、いいえの「ノー」の他、「ブエノス・ディアス、ブエノス・ノーチェス、ヴィノ・ブランコ、アグア」
などで、大体こなせる。 さようならの「アディオ」スは、あまり使わなかったし聞かなかった。
スペイン語がいちばん上手な外国人は、日本人だと地元の人が言うとか。
<「アディオス!」、スティーブ・マックイーンとユル・ブリンナーが、メキシコ寒村のはずれで、
若いホルスト・ブッフホルツに何かを促すように、告げる。
村娘の悲しげな顔のアップ、馬を戻してガンベルトをはずす若者、満面に笑みがもどる娘。
走り去っていく二人のガンマンの後姿にエンドマークがオーバーラップ。
明るくなった劇場内で、しばらくイスから動けなかった。
なんと、最後のセリフがスペイン語とは! いまも見飽きることがない「荒野の七人」。
こちらが本家オリジナルと、本気で思っていた多感な10代の後半であった。
<多難な60代後半となった今、たけし監督の「龍三と七人の子分」を見た。
イスから転がり落ちそうになった。観客が同じタイミングで大笑いする。
久しく経験していない映画館での爆笑また爆笑、理屈抜きに痛快であった。
<さて、スペインを一周してついでにパリにも顔をだすという、
こちらはパック旅行の本家、本元、元祖、家元のJALパックツアーの旅。
あすは、フランス・スペイン共同開発の新幹線「AVE・アヴェ」で、マドリッドをあとにして
観光のハイライト南部アンダルシア地方に向かう。
<旅の大きな楽しみは食事である。
ここアンダルシアでは、郷土料理や名物料理を期待してはいけない。
ミハスという観光名所がある。白い家並みの村で、スペインを代表する美しいところだ。
この村での昼食は、はるか下に地中海を見おろす絶景のレストラン。
メニューはメルルーサのソテーに温野菜だが、これが不味い。
同じテーブルのメンバーもまずい。会話も雰囲気も食えない。
「サルー!」と乾杯、続けて「ディネーロ!」、「アムール!」と言うと、
札幌からの中年姉妹が「それって、ナニ?」と、聞いてこられた。
「健康とお金と愛のことで、3つそろっている人は神様に感謝しなさい。一つでもなくすと不幸な
人生になりますよ 気をつけなさい」という意味でスペイン人の人生観みたいなものです」と、
タラバ講釈をした。
「フーン!なるほど、そのとおりかもネー」と笑いながらも、神妙な顔をされていた。
<「広告代理店を退職されたと自己紹介されましたが、家に置いてきた主人も同業ですのよ!」と、
東京からの中年婦人。 「アー、ソウデスカ。それはどうも」
そこに、お連れのご婦人が口をはさんでこられた。
「あら!広告代理店ですの。わたしの息子はネー、A社の宣伝部におりますのよ。
大きな仕事をしているみたい。ホホホホ!」
「アー、ソウデスカ。それはどうも」
「あら!広告代理店ですの。わたしのバカ息子は、A社の宣伝部に勤務しておりますが、
仕事ができているのか親として心配ですわ。皆様には何かとお世話になっております」と
、こうおっしゃれば、あたりさわりないニッポン式会話が続いたかもしれない。
が、ここはエスパーニャ、灼熱の太陽が異国旅情がつい言わせたのでありましょう。
臭い味の、もとになっている温野菜は遠慮して、メルルーサだけを白ワインで流しこんだ。
つづく
Posted by 横丁文化倶楽部 at 12:33│Comments(0)
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